第二十六話 山の女

7.社と湖


 「うーむ」

 村長は顎ひげをしゃくりながら唸る。 『山姫母』の前には木挽き衆や百姓衆の若い者たちが転がり、死屍累々と言ったありさまだ。

 「一応息はあるようじゃが」

 『山姫母』の女陰は彼らの予想を超えていた。 匂いをかげはモノはそそり立ち、触れただけで官能の極みに達する。 最初に触れた若い衆が何とか

持ちこたえたのは、『山姫母』が肉欲を押さえていたためらしかった。 今や『全開』と言った風情で、突撃してきた若い衆は、肉襞にまかれたと思ったら、

次の瞬間にはあられもない格好で失神している……といった有様だ。 そのなかで、吾作だけは一人気を吐き、『山姫母』の宝玉を擦りあげ、肉襞を揉み

しだいている。

 ぜー、ぜー……


 ”あ奴、がんばるのう……”

 村長の横に座り込んだ『山姫姉』が感心した風情で言った。

 ”昨日、我と一戦交えた経験が役立っているのう”

 「ですだなぁ……」

 ”しかし、前戯から先に進まぬでは……母様もそろそろ……”

 『山姫姉』が呟くのと同時に、『山姫母』が顔を上げた。

 ”もの足らぬ……体でぶつかってこい”

 『山姫母』は吾作の体を、大仏様なみの手掴み上げた。 自分の女陰に体ごと押し付けた。

 「う…ぁぁ」

 一擦りで男が悶絶する肉襞。 その間に挟まれた吾作は、比喩でなしに『逝き』かけた。

 「こうなりゃ……」

 吾作は唇をかみしめ、肉襞をかき分けるように、女陰の中に体をねじ入れる。 引きしまった木挽きの体が、女陰の向こうに消えた。

 「う……」

 前進に纏わりつく濡れた肉襞の感触に、頭の中が白く染まる。

 ”ああ……”

 ”きた……”

 ”おいで……奥に……”

 妖しく囁く肉の感触に、張り詰めたモノがヒクヒクと痙攣する。 しかし『山姫姉』に抜かれ切った吾作は、達することができずに、きの狂いそうな快感に

悶えるのみ。

 「……くそう……」

 それは苦し紛れの行動だった。 吾作は腰につけていた『倍櫓』のひょうたんを口に持っていき、中身を全て飲み干した。

 「ぬあっ!?……あ、あ、あー!!……」

 
 ”なんじゃ?”

 「吾作どん!?」

 女陰の中から吾作の声が聞こえた。 そして、『山姫母』の声が艶を帯びていく。

 ”あ?……あ、ああ……”

 (なんだべ……)

 吾作はぼんやりと考えた、体が膨れたような感じがしたと思ったら、爆発しそうだった体が急に楽になった。

 (あー……)

 ぼーっとしていると、体に巻き付く肉襞が動き出した。 ヌルヌルした感触がとても心地よい。

 (極楽だぁ……)

 そんなことを考えながら、吾作はからだを揺する。

 ヒクン

 ニュルリ……

 ヒクヒク

 ニュルニユル……

 吾作の動きに合わせて、周りの肉襞が彼の体を愛撫する。 愛撫されたところに痺れるような快感が起こる。

 (あはぁ……)

 吾作はからだを揺すりながら、『山姫母』の胎内を奥へと進む。 手も足も使わず、芋虫のように這いずって進む。

 (いい……)

 吾作は夢心地のまま、奥へ奥へと進み、そして奥底に突き当たった。

 ”ああー……”

 プルンと女陰が震えた。

 (ここが……いいんですな……)

 吾作は、『山姫母』の奥底に自分を摺り寄せ、あらん限りの力でそこを愛撫した。 柔らかな肉が擦れ合うような感触に続き、蕩けるような快感が体の

芯に沸き起こる。 同時に、彼を包む肉襞がフルフルと震え出した。

 ”いい……いい……いっしょに……”

 (ああ……ああ……あああ!!)

 吾作の中で、白いモノが破裂し、熱い奔流となって『山姫母』の奥底を叩いた。 『山姫母』は高い声を上げてのけ反り、果てた。

 
 「ああ、吾作どん……なんて姿に」

 『山姫母』のなかから出てきたのは、巨大な男根の形をした石だった。 それが吾作の変じたものであることは、疑いようがなかった。

 ”わが母を一身を持って喜ばせたか。 見事なり”

 『山姫姉』、『山姫』そして村の衆、木挽き衆は『吾作石』に手を合わせる。 すると、失神していた『山姫母』がむくりと起き上がり、『吾作石』を掴み上げた。

 「『山姫』様、吾作をどうなされます」

 村長の問に『山姫母』が答える。

 ”我、初めて絶頂を覚えたり。 これは、わが夫にして、我のモノ。 祭りて奉ぜよ。 さすれば、豊穣の実りが得られよう”

 『は、ははーっ』

 ”われは、歓びをもたらしたわが夫と共に、そなたらに実りをもたらそうぞ”

 そう言って『山姫母』は『吾作石』を手にしたまま、山の方に帰っていった。

 「行ってしまわれた……」

 「祭りて奉じろって……どうすんだ?」

 残された村びとたちが首をひねっていると、『山姫姉』と『山姫』が村長に告げた。

 ”明日、日が昇ったのち、母上の去った方に行ってみるが良い”

 「は、はい」

 村長が答えると、残った二人の『山姫』達も、『山姫母』の後を追うように、山に帰っていった。

 
 翌日、山に分け入った村人たちは、そこに大きな湖が出来ているのを見つけた。

 「ここは、荒れ地だったはずだが……」

 「実りをもたらすとは、この水を引けっつうことか?」

 「あ、あそこに吾作どんの石が!」

 そちらを見ると湖のほとりに『吾作石』が天を睨むようにそそり立っていた。 村人たちは、『山姫母』の言った通りにしようと、『吾作石』を祭る社を建て、

『吾作珍宝大明神』との額を掲げて『倍櫓』のヒョウタンをご神器とし、湖には『山姫満湖』と名前を付けた。 その後、どんな干ばつになっても湖が干上がる

ことはなく、村は長く栄えたという……

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 「……と、これがこの薬『倍櫓』にまつわる話だが……どうした?」

 男の前で、滝と志度はげんなりした顔で男とヒョウタンを見比べていた。

 「昔話かと思えば……最後はだ洒落の落語か? いや、落ちてもいないぞ」

 「なにいうだ。 これはおらん村に伝わる、言い伝えだ」

 そうか、そうかと言いながら、志度がヒョウタンに手を伸ばしたその時、頭の上から声が響いてきた。

 
 ”みだりに触れるでないぞ……”

 
 振り仰いだ滝と志度の眼に、大きな白い手が伸びてくるのが見えた。 手は語っていた男を捕まえる。

 「あ」

 「ど、どこに行った!?」

 男の姿はそこになく、男根の形をした岩がそそり立っていた。 手はその岩をひょいと掴み、そのまま天空へと消える。

 ヒョウ……

 一陣の風がロウソクの炎を吹き消す。

 滝は辺りが闇にもどる刹那、そこにあったはずのヒョウタンがなくなっているのを見た。

<第二十六話 山の女 終>
   

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