白い人魚

1:船出


この話は、ある大学の教授により始められる。
マジステール大学、生物学科、UMA(未確認生物の事〜)講座。
ランデルハウス・クラチウス教授50歳、通称ランデル教授、彼はUMA研究において、世界的に有名な人間であった。

そして今日、久しぶりに教授の講義が行われる…
”諸君、本日の講義を始める”教授は語りだす。
”私は先だって北極海に『光る海』と呼ばれる場所があり、そこに人魚がいるという情報を得た。”
集まっている学生達に、ざわめきと失笑が広がる。
”そこで人魚の存在を確認し、捕獲するために、コットン助手と調査に出かけたのだ…”

−12月19日、トリシテア港−

トリシテアの港…ここは、北の海に面した小さな漁港で、冬には流氷が流れ着く事もある北極海への玄関口である。
そこに、場違いな2人づれがいた。
探検家のトレードマーク、白い探検用ヘルメット、白い半袖シャツ、半ズボン…アフリカの草原でハンティングするならともかく…北極海では場違いも甚だしい格好であった。

「いい日よりだ、そう思わんかね、コットン君」どんより曇った空を見上げて教授が言う。
「はい、教授」
「それで、『光る海』の場所を知っているというのは…」
「えーと、ああ来ました、彼です」
やってきたのは、船長帽をかぶった、りりしい海の男…だったに違いない老人であった。

「ふぇふぇふぇ…ふぁんふぁふぁひか(あんた達か)、ひはるふみ(光る海)ひひひはい(行きたい)ほひうのは…」
歯の無い口で聞いてくる。
「うむ、我輩、ランデルハウス・クラチウス教授である」
「助手のコットンです」
ぱく、入れ歯をはめる。「もぐもぐ…いいか断っておくが、『光る海』に行くのは命がけじゃぞ…何より、『光る海』に行くのはこの辺ではタブーじゃ、じゃから…」意味ありげな船長。
「うむ、よーくわかっている…行ってくれたら、我々はあなたに…」
「おう、わかっているか…」にんまりする船長。
「うむ、心から感謝する」にっこりする教授。
船長「…やっぱやめるか…」
「いや、物質的に感謝します」慌てていい直す助手コットン。
船長「よし、行くぞ!ー」
教授「おぉ!ー」
…なにかと苦労の多い助手コットンであった…

船長「準備ができ次第、出発するぞ…その前に着替えて来い…その格好では凍死するぞ…」

ランデル教授、助手コットン、船長の3人は、50t程度の漁船オロシャ号で海に乗り出していく、『光る海』に人魚を求めて…
そして、オロシャ号は2度と戻ってこなかった…


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