月光蝶

1:満月の夜


夜空に満月が煌煌と輝いている。
地には深い森がどこまでも広がっている。
ここはマジステール公国、森に囲まれた小さな国。

城下町に程近い、一本の木の上に、それがいた。
きらきらと、魔性の輝きを湛えた蝶の羽。
その羽の持ち主は、人間の女に見える青い肌の魔物。
人はそれを「月光蝶」と呼ぶ。
このあたりで最も恐れられる魔物である。

その羽はあまりに美しく、都の貴族に珍重される。
美しい色合いの羽一揃いならば、下級市民一家族が一生食べていける
値がつく物もある。
だが、月光蝶は、人を惑わし、魂を奪い、命を食らう。
満月の夜に現れ、人と戯れ、時に人をさらう。
森で月光蝶と出会って、生きて帰った者はいない。
奇跡的に返ってきた者も、不可解な病気にかかってほとんど死んだ。
わずかな例外をのぞいて…

今木の上にいるそれは、若い女性に見える。
その羽は金と緑の文様で彩られ、例えようも無く美しい。

金の月光蝶は樹下を伺う、人だ、子供のようだ、迷子にでもなったのか。
絶好の獲物だが、少々若すぎる、見逃そうかそれとも考えていると、ふと思い出す。
「ルウ」と言う名を持つ、人間の少年の事を。


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