VS

29.真の対決 ミスティ VS エミ


ザクザクザク… 砂利道を踏みしめて、二人はログハウスに戻ってきた。

「ふぁー…」ミスティは大あくびをした。 無理もない。 もう深夜というより朝に近い時間帯だ。 エミの翼をくいくいと引

っ張る。

「ねぇー…明るくなるまで人は来ないんでしょう?一休みしようよぉ」

「そうねぇ…残業手当も出ないのに徹夜なんて…」と肩をこきこきと鳴らし、疲れた様子で同意しかけるエミ。 

が思い直し、首を振って眠気を払う

「…だめよ。今休んだら眠り込んでしまうわ…目が覚めたら回りは警察やマスコミでいっぱいなんてのは御免よ」そう

言いながらログハウスに入る。 ぶつぶつ文句を言いながらミスティが後に続く。


鶴組長と美囲次郎、エミが『戦い』を繰り広げたリビングは惨憺たる有様だった。 二人は周りに散らばっている組長

達の荷物を手分けしてあさる。

「ゲーム機、柿の種、フライビーンズ、さきいか…あいつら宴会旅行と間違えてたんじゃないの!」苛立ちを隠そうとも

せずにエミが言う。

「やった!ケータイ見っけ…コーモリ女ちゃんのもあるよ♪…」自分とエミの携帯を見つけたミスティが、エミに携帯を

投げてよこす。

エミは片手で自分の携帯を受け止めた。 それをリビングテーブルに置いて、また荷物を漁り出す。

「?」首を傾げるミスティにエミは背中を向けたまま言った。

「私のハンドバッグがどこかにあるはずなのよ。 大事なものが入っているから捜してくれない?」

一瞬きょとんとしたミスティは、了解のサインを指で作るとエミに背を向けて再び別の荷物をあさり出した。


ゴソゴソ…キャスター付きのバッグを探っていたミスティは、女物のハンドバッグを見つけ出した。

(やった!)

喜んで『それ』を引っ張り出しエミに声をかけようとし…思いとどまる。 何が入っているのか興味が湧いて来たのだ。

(大事な物って…あれ?)正方形のビニールパッケージを見つけた。

(…ゴム風船?) それはコンドームだった。

ちよっと首をかしげ、ミスティはコンドームを放り出してまた中身を探る。

ゴソゴソ(…?…)また同じくらいの大きさのモノを見つけたが、今度は正体が判らない。 『それ』を指でつまんで裏表

をあらためる。

(!?)ミスティの目がまん丸にり、しげしげと『それ』を見つめた。

(…コレハ…)ゆっくり首を巡らして肩越しにエミ振り返るミスティ。 エミは翼を畳んだ背中を向け、他の荷物からパン

ツやシャツを引っ張り出しては背後に放り投げを繰り返している。

「どこよ!全く!!」 勢いよく左右にに揺れる尻尾が彼女の苛立ちを表している

キロ… 目だけを動かして再び『それ』を見るミスティ。 キュッと瞳が絞られる。

…ソウダッタノネ… 濃いピンク色の唇から響きの違う言葉が漏れた。 口もとが釣りあがり、笑みの形を取る。 微か

に覗く犬歯が彼女にひどく邪なものを感じさせた。


ミスティは猫のような身のこなしで立ち上がると、エミに背を向けたまま数歩歩んだ。 

部屋の端に据え付けられている鉄製の暖炉の上、煙突に立てかけるように『それ』を置いた。 先程見つけた携帯を

パチリと開くと、今度はエミに歩み寄る。

「コーモリ女ちゃん♪」

「何よ…見つかったの?」背中で返すエミ。

「ううん♪ メアドと電話番号教えて♪」

でっ… 突っ伏すエミ。 「後になさい!!」振り返って怒鳴る。

「やだ。 後なんて言ったら忘れるかもしれないじゃない」駄々っ子のように言って、ミスティはずいと自分の携帯を突

き出す。

ふぅ… ため息をついて、エミはそれを受け取り自分の携帯の番号をプッシュする。

ピッピッピッ…カッ!  ミスティの携帯の画面が輝いた。

「なっ!?…」エミが立ち尽くす。 携帯の画面に複雑な光の文様が渦を巻き、エミの視線を吸い寄せる。


クッ…ククッ… のどの奥でミスティが笑う。 

あ…あぁぁぁ… エミの頭の中で光が渦を撒き、複雑な形が…魔方陣が形を成していく… 思考が停止し、心が凍るよ

うな冷たさが頭の中を支配していく。

あ…グッ…グウッ… エミの喉から獣のようなうめきが漏れた。

エミの瞳が光り始める、金色に。 エミの目に映っていた光の渦が金色の光に弾かれる。 しかし携帯の光の渦は強

烈にエミの心を縛り上げる。

クゥ…ウゥゥゥッ… 携帯を握り締め、そのが目を見つめたまま細かく震え、立ち尽くすエミ。

フンフン♪… 鼻歌を歌いながらミスティは服を脱いだ。 ピンク色の裸身が露になる。

クッ…クククッ… 邪な雰囲気をベールのようにまとい、ミスティはエミに擦り寄った。


スゥッ… ミスティの肩がエミの二の腕を撫でた。 ヒクッ… エミの腕が震える。

フフッ… ミスティの顔が、携帯とエミの瞳の間に割り込む。 一瞬正気を取り戻しかけるエミ。 しかし…

クックックッ… 笑いながらエミを見つめるミスティ、濃いピンク色の瞳の上で、光るピンクの渦が踊る。 エミの視線を

巻き込んで、闇へ誘うように…

ウッウッウッ… 唸りながら、空いた手でミスティの肩を掴むエミ。 しかし肩に張り付いたように手が動かない。

ユラユラと体を揺するミスティ。 手が肩を滑る…滑る… 絹のような手触りのミスティの肌を。

ツッ…ツッ…スッ…スッ…ススッ…スススッ… 次第に動きを増していくエミの左手… 肩の上をすべり、背中に回り…

ビロードのような手触りの小さい羽を捕らえる。

グッ…アッ…アアッ… 白い喉が反り返り、異様な声を絞り出す。 細い指の綺麗な手は、ヒクヒクと不自然にひくつき

ながら、小悪魔の背中を大胆に這い回りだした。

その動きは可愛らしく危険な生き物を、自分に引き寄せることになる。


フカッ… 豊かな胸が極上のクッションのように、ピンク色の幼い胸板を受け止めた。 ミスティはにっと笑うと、体をゆ

っくり上下させる。

ッ…ッ…ッ… (!…!…) 敏感なサキュバスの乳首が、悪魔の肌の感触を余す事無く伝えてくる。 絹のようになめ

らかで、体の芯を震わせるような感触… それが白い胸を包み込み…その奥にあるものを虜にしようとしている…

カッ… エミの瞳が強く輝いた。 

乱暴にミスティを抱き寄せると、ミスティの唇を奪う。 ミスティの足の間に自分の足を滑り込ませて足を振るわせる。

アゥッ… 熱く甘いうめきをあげるミスティ。 しかし、唇を割って入ってきた蛇のような舌を絡め取ると、自分の舌であ

やすように舐めまわす。

悪魔とサキュバスのディープキス… 互いに主導権を取ろうとする、熱く濡れた蛇のせめぎ合いが、散らかったリビン

グを妖しい音で満たす。

グウッ…ググッ…アウッ… エミの旗色が悪くなる。 ミスティの舌は、普段からは想像できない淫らな動きでエミの舌

を捕らえ、優しく撒きついて自分のものにしていく。

その間も、細いピンクの肢体が豊満な白い肉体に摺り寄せられ絡みつき、じわじわと妖しい愛撫の虜にしていく。

エミの腕…胸…そして足までも、ミスティの動きに合わせてその体を捕まえ、滑るように動いてミスティを愛撫する。

アァ…アァ… しかし、愉悦の声を上げているのはエミの方だ…何か得体の知れないものが染み込んで来る様な…甘

い蜜が体に満ちていくような感覚…そしてそれが魂という名のエミの宝玉を奪おうとしている。


ビュン! 突如エミの尻尾が動いた。 不甲斐ない本体を叱咤するかのように動くと、絡み合う足の間に滑り込んで悪

魔の秘所を突き刺した。

ア…ゥン… ミスティが一声鳴いた。 得たりとばかりにウネウネ動きながらミスティに滑り込んでいくエミの尻尾。 

しかし…

クククッ… ミスティが笑うと、エミの尻尾が硬直した。

ヌッ…ヌヌッ… 人間の魂が母の子宮を始まりとするのならば、悪魔の子宮はその終着点…男を誘い魂を蕩かすミス

ティの奥の奥…そこに尻尾を突っ込んだことは自殺行為だった。

ウッ…ウゥゥゥッ… 苦痛とも悦楽ともつかぬ声を上げ動きを止めたエミ…しかし、その瞳の金色は薄れるどころかます

ます輝いていく。

「ククッ…ヨイ心地デショウ…みすてぃノココハ…」

「ハァ…エエ…トッテモ…イイ…」うっとりと答えるエミ。 体の芯が溶けていく。 自分を縛っていた何かから解き放た

れていく。 そんな不思議な快感に包まれていく。

「フッ…フフッ…」金色の光が渦を巻くエミの瞳を見てミスティは笑う。 そして、ぎゅっとエミを抱き寄せて、互いの頭を

肩にもたれさせた…

「モウ少シ…ククッ…」


キン! 突如、白い光がエミの瞳を射た!

(!?) サキュバスの本性、怠惰で淫靡な快楽に包まれていたエミの魂、それが白い光で照らされ一瞬正気に戻る。

「くっ!!」「きゃん!」 思いっきりミスティを突き飛ばすエミ。 軽い体が床に転がり、弾みでミスティの携帯も飛んで

いく。

ガチャン! 派手な音を立ててミスティの携帯が壊れた。


はぁ…はぁ…はぁ… 床に倒れ込み、手を突いて呼吸を整えるエミ。 はっと顔を上げると白い光出どころ…暖炉の上

を見た。

「!」一足飛びに暖炉に飛びつき、『それ』を手に収めた。

…『それ』は割れた鏡のかけら…プラスチックでシールされた、水銀を塗布された何の変哲もないガラス…だが、それ

はエミをサキュバスに変えたあの『鏡』…そのかけらだった。

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