VS

1.トラブルの始まり


『思い出の品』…そう呼ばれる物がある。 それは高価な品である事もあれば只のガラクタであることも在るだろう。

結婚指輪、初めての贈り物、海辺で拾った貝殻、大事な人を無くした時持っていた鍵…

それらに共通している事は、それを目にした時記憶が蘇る事…

もちろん、記憶しているのは人であって物ではない。 だからそれがなくなっても記憶は残るはずだ。

しかし、『思い出の品』を失った時…大事な思い出もなくしてしまう…忘れてはいけない事を忘れてしまう…そんな気がしないだろうか…


−− マンション・ゴールデン・ゴージャス −−

間違いなく名前負けしそうなマンション…その最上階の4LDKの寝室で、二人の男女が睦みあっていた。

何時何処で何をしようが当人達の勝手である…が、時計の針は昼の12時まであと10分…ベッドの上で裸になっている人は少ないと思う…堅気には。


だだっ広いダブルベッドの上に座り込んだ男のイチモツを、女が咥え込み舌を絡みつかせる。

「おう…うへへ…」

男は相好を崩し、誰はばかる事もなく喘ぐ。

毛のない頭は油を塗ったようにテカテカとひかり、弛んだ腹と好色そうににやけた顔には『スキモノ親父』と書いてあるようだ。

女は嫌がる様子もなく、欲望の棒を激しく吸い、舌を巻きつかせる。

「お…うう…すごい…」

余裕だった男の表情が変わる。 女の激しい責めにイチモツが固く張り詰めて、いってしまいそうになる。

「ま…まて…へへあせるなよエミ…」

男はそう言って女の肩を持ってイチモツから引き剥がした。 女は逆らわずに口を離しニコリと笑う。

「あら、鶴組長さん。もういっちゃいそうなのぉ?」

鶴組長はむっとしたようだ。 女に主導権を取られるのが悔しいようだ。

「馬鹿言うな!…おりゃ、やさしいんだ。 お前もいい目をさせてやらないとな…」

そう言ってごろんとあお向けになり、イチモツが天を向くようにした。

「さあ来い!…おっと、それから今は組長と呼ぶなよ」

「あら…じゃあ苗字だけでいいのかしら?」

「名前で呼ベ」鶴組長は横柄な口調で言う。

「うふ…じゃあ透ちゃん♪」

「…ん…いい響きだ…」とにやける鶴組長…いや『透ちゃん』。


女…エミは腹の出た男に跨る。 こんな男には勿体無いようなプロポーションだ。

胸はCカップ、腰はきゅっとくびれ、尻の辺りタップリとした質感がある。

「うむ…いい女だ…」

エミは『透ちゃん』の男をそっと掴むと中腰になって自分の秘所に宛がい、ゆっくりと前後させた。

「む…」

エミの陰唇がヌルヌルした涎のような液をたらし、亀頭をにネットリとした感触を残す。

それだけで亀頭に痺れるような疼きが走り、陰茎がいっそう固くなるようだ。

負けじとゴツゴツした手が白い太ももを掴み、腰へ向けて擦りあがった。 しっとりとした女のはだが手のひらに吸い付き、離れなくなりそうだ。


ふっ…エミは息を漏らすと、ゆっくり腰を落としていく。

「うっ…」『透ちゃん』も息を漏らす。

エミの中は想像以上に濡れて淫らだった。

初めての女に硬くなっている陰茎に幾重にも肉襞が巻きつき、解きほぐそうとする。

油断していると、芯までほぐされそうな勢いだ。

「すげぇ…スケベな女…おうっ?…」

ズブズブと男根が呑み込まれ、互いの陰毛が絡み合う。 『透ちゃん』は亀頭がエミの奥底に誘い込まれ、無数の淫肉が摩り上げるのを感じた。

(こ…これはすご…ううっ…)

エミが腰をゆっくりとグラインドさせるが、そんなものを感じている余裕はない。

陰茎から亀頭にかけてが、エミの中で無数の淫らな舌に舐められているようだ。 『透ちゃん』の心に恐怖が生まれる。

「う…うう…うおおおっ!」

一声発して、『透ちゃん』は達した。 

ドクリ…ドクリドクリドクリドクリ…体の中身を吸い出されるかのような射精感に『透ちゃん』は溺れた。


「うう…ふぅ…」タップリ一分間(!)は続いた絶頂が終わり、ようやく『透ちゃん』は一息ついた。

エミは『透ちゃん』の脇に手を入れ、彼を抱き起こした。

ふくよかな胸で『透ちゃん』の胸板を受け止め、互いの体を擦り合わせるようにして『透ちゃん』が余韻を楽しむのを助ける。

「おう…サービスいいな…うむ…決めた!」

「あら…何を?」

「お前みたいないい女が他の男とやるのは我慢できねぇ!今日からお前は俺の女だ!」

「あら…」

エミが僅かに驚いたような声を出し、それから微笑む…しかしその笑いに微かな冷たさと嘲りが混じっている。


エミは鶴組長をきゅっと抱きしめ、組長の耳タブを甘噛みした。

「嬉しい…でも…」

エミの瞳が金色の光を帯びる。 赤い唇の間から舌が…細く…ヘビの様に伸びる…

「う?…」鶴組長が戸惑いの声を上げた。

組長の耳を細く伸びた舌がヘビの様に這いずり…そして一気に耳の穴の中に滑り込む。

「うっ…」一瞬組長の表情が虚ろになり…そしてだらしなく緩む。

グチャグチャ…二人の腰が再び淫らな音を立て始めた。

同時に、エミの舌が組長の鼓膜を優しく擦り、音にならない声を作り出す。

”だめよ『透ちゃん』…男はもっと太っ腹じゃないと…”

「…太っ腹…」

”そうそう…『透ちゃん』は男の中の男なんだから…”

「…おう…おりゃ男だ…」そう言いながら、エミの中で鶴組長のイチモツが固く『きおつけ』の姿勢をとる。

ふっ…エミは軽く笑った。

”じゃあいいわね…私は誰のものでもない…『透ちゃん』の相手もいつでもしてあげるから…”

「…うむ…おめぇは誰のものでもねぇ…」

鶴組長がそう呟くと、エミの舌はするすると耳から出てきて、形のよい唇の間に戻っていく。

同時にその瞳から金色の光が消えた。


呆けたような顔をしていた鶴組長は、ニ三度瞬きをして我にかえった。

夢から覚めたような顔をして、ベッドから降りようとしていたエミに声をかける。

「…おい…俺はなにか言ったかな?…」

「ええ、あたしはいい女だっていってくれたわ」とエミが笑う。

「…そうか。いやほんとに、すげえなお前は。 こんなのは初めてだった」

そう言って、鶴組長はサイドテーブルのタバコに手を伸ばした。

タバコの銘柄を見て顔をしかめる。

「なんだ?いつものじゃねぇな。爺の野郎買い物もまともに出来ねぇのか」

そう言ってタバコの封を切り、一本咥えて火をつける。

「ふん…『マジステール』? 変な名前だ…」

そう言って今度はリモコンを取り上げTVを付けた。


エミはバスルームにはいってシャワーを浴びる。

「ふう…濃いことは濃いけど…脂っこいような精気ね…若いので口直ししようかしら…」

と奇妙な事を呟いた。

と、突然寝室の方が騒がしくなった。 怪訝な顔で、バスルームの扉を開ける。


「あの馬鹿野郎!!とんでもない事になりやがった!!」

鶴組長が喚きながら、物凄い勢いで服を着ている。

趣味の悪い背広を着てサングラスをかけ、太い金のネックレスと金張りの腕時計をつけると、辺りにあっためぼしいものをキャスターと持ち手付きのカバンに放り込む。

そして、あっけに取られているエミに向って、「わりぃ!急用ができた!今日の分つけといてくれ!」と叫んだ。

身支度が終わると、カバンを引きずるようにして玄関に走っていく。

靴を履きながら、「ここはオートロックだから勝手に出てってくれ。じゃあな!」と言い捨てて、ドアを蹴破らんばかりの勢いで外に飛び出していった。


エミはしばらく呆然としていたが、やがて我にかえって呟いた。「どうしちゃったんだろう…」

そのまま立っていても仕方がないのでバスタオルで体を拭き、寝室にもどって下着をつけ始めた。

と、つけっ放しのTVがらアナウンサーの声が聞こえてきた。

「最初のニュースを繰り返します。 本日、ATMにVTRカメラを設置しようとしていた男が建造物不法侵入の容疑で逮捕されました。 男は爺七郎、二十一歳とみられ非指定暴力団鶴亀組の構成員であるとみられます。 水神町警察署では鶴亀組組長、鶴透、四十五歳がなんらかの事情を知っているものと見てその行方を追っています…」

エミは目をぱちくりさせた。

「あれま…こりゃ今日の分は貰えないかしら…」

そう言いながらストッキングを履く。

真っ黒いワンピースを着てコートを手にとり、ハンドバッグを…しかし、ハンドバックが見つからない…

ベッドの下や、脱衣籠、靴箱の上…そして何故か寝室に置いてある西洋風の全身鎧の中まで探したが見つからない。


「…」エミはベッドに座って考えた。

ハンドバッグは持ってこなかったか…いやもって来たはず…

「あー!!」思い出した。 さっき鶴組長が辺りの物を片っ端からカバンに放り込んでいたのを。

「あの××××!××××××××××××××××!」

凄まじい形相で喚き出したエミ。

その瞳は金色の光を宿し、頭に二本の角が生えていた…

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