ミルク

5.馬屋


宿屋の中で惨劇が続く。
…ひぃぁぁぁぁ…
…うぉぉぉぉぉ…
悲鳴とも歓喜の声ともつかぬ声は犠牲者の断末魔か、絶頂の叫びか。
不思議な事に、誰も他の部屋で起きていることに気がつかない…カルーアが部屋を訪れるまで…
そして、宿の中から人の気配が消えた。

キ…ィィィィィィィ…
宿の主人の部屋、きしむ音を立ててドアが開く。
「…フゥ…」
幽鬼のような白い女…カルーアが、闇から浮き出るように姿を現す。

彼女が一歩踏み出す。
トッ…ブルン…
重々しく胸が揺れた。 カルーアは満足そうに笑う。
「フフ…ウフフ…」
彼女は胸に手をやる…弾む手ごたえ。
「取リ戻シタ…ツイニ…」
二つの双丘は完璧なラインを描き、白い体の中でそこだけ淡いピンクの乳首は何かを狙うかのようにピンと立っている。
そして、谷間は暗い帳を作り…獲物を誘い込む…
カルーアは『女』に戻ったのだ。
「フフフフフフ…」
彼女の笑い声が聞く者がいなくなった廊下でこだまする。

トッ…ブルン…トッ…ブルン…
彼女の心情を表すかのように、一足ごとに白い乳房が跳ね踊る。 が…
「フム…」
トットットッ…ボヨンボヨンボヨン…
早足で歩くと、乳房が大きく上下に弾み今までと勝手が違う。
「…ソノウチ慣レルダロウ…ン?…」
彼女の耳に微かなすすり泣きが聞こえた。
他の部屋か?…違う、外だ。
カルーアは首を傾げ、何かを考えるような仕草をした。
(…娘…売り物…)
「アア…『商品』カ…」納得するカルーア。
その時、彼女の中に何かこみ上げてくるものがあった…きゅぅっと胸が締め付けられる。
「…可哀想ニ…」
カルーアは悲しげな表情で外に出た。

チー…チー…名も知らぬ虫が鳴いている。 夜露が足を濡らす。
カルーアは宿を出て裏に回る。
そこには、辻馬車や宿の客の馬を休ませる為の馬屋があった。 声はそこから聞こえている。
カルーアは躊躇う事無く馬屋に入る。
ブルルル…カルーアの気配に一頭の馬が目を覚まし嘶こうとする。 しかし、彼女が鬣を撫でると大人しくなる。

クスン…クスン…お腹すいた…
子供の声が馬屋の奥からする。
カルーアは瞳の無くなった目を細め、奥の様子を伺う。
三人の女の子が、馬の寝床で横になっている。
泣いているのはその一人だ。

サク…
カルーアはわざと藁くずを踏み、すすり泣いていた子が音に気がついた。
「誰?…おじちゃんなの?…」
その声で他の二人も目を覚ましたようだ。 三人が一斉にカルーアを見る。
「…」
その目は閉じていた。 三人とも。
これが、この子達が売られた理由であったのだろう。
カルーアが黙っていると、子供達がおびえ始めた。
「…ぶたないで…いじめないで…」
涙声で謝る娘に、カルーアは手を伸ばして頬にそっと触れる。
触られた娘は一瞬身を縮め、そして首を傾げてその手に自分の手を重ねる。
「…誰…」
そして犬のようにくんくん鼻を鳴らす。
「…ママ…」
誰かが見ていれば、カルーアが優しく微笑むのに気がついたろう…母親のように。

「オ腹…スイテイルノネ…」
カルーアの声に、三人が一斉にコクンと頷く。
カルーアは汚い藁の寝床に横ずわりになると、女の子達を抱き寄せた。
フワリ…
カルーアの体からミルクの香りが漂い出た。 その香りは纏いつくように四人を包み込む。
見知らぬ女性の抱擁に身を硬くしていた女の子達だが、カルーアの香りに包まれると安心したように体を預けてきた。
「…お姉ちゃん?…どうして裸なの…」
「悪イ人ニ盗ラレタノ」
「…お姉ちゃん…いい匂いがする…ママの匂い…」
「ママ…」
四人は一枚の絵のように動きを止めた。
題をつけるならば『安らぎ』だろうか…

…プルン…
一人の女の子が無意識にカルーアの乳に手を伸ばし乳首に触れた。
「アン…」
「…ごめんなさい」 くー…
女の子は言葉で謝りつつ、お腹で本音を表現した。
「ウフフ…」
カルーアは二人の女の子の頭をそっと抱え込み、自分の乳首を含ませる。
「お姉ちゃん?…」
チュク…トロ…
カルーアの乳首から白い…トロリとした甘いミルクが染み出して、花びらのような少女達の唇を白く染める。
自然に舌が出て、白い雫を舐める…
「あ…」「甘い…」
チュウ…チュク…チュク…
二人は、カルーアの乳首を含むと吸い始めた…吸うほどに甘い『ミルク』が口腔を満たし、お腹の中に流れていくのがわかる…
「おいし…」「あふ…」
甘い…とても甘いそれは…お腹を満たして中からポウッと暖めてくれるよう…
蜜のようにトロトロした感じが、ゆっくり体の隅々まで広がっていく…
「…ふぁ…」「…夢…み…た…い…」
次第に陶然とした表情になって行く女の子達…ひとり、ぽつんと仲間はずれにされた子の閉じられた目から涙がこぼれる。
「アラアラ…大丈夫ヨ…」
そう言ってカルーアは一人をそっと乳首から放す。
その子は、まだ『ミルク』を飲んでいない子の手をとってカルーアの乳首に含ませてやった。
程なく、その子も蕩けたような表情になりカルーアの『ミルク』を夢心地で飲み始めた。
「おいしい…何か…楽しい…うふ…ウフフ…」
「あたしも…あは…アハハ…」
「…眠い…眠く…ナッチャッタ…ファァ…」
三人の娘達は、やがてカルーアのそばにうずくまって眠り始めた。
先程とはうって変わり、とても安らかな寝顔で。
カルーアは優しい顔で彼女達の寝顔を見やった。
「ユックリオ休ミ。モウ誰モ、オ前達ヲ苛メナイ…誰モ…」

…チャプ…ピチャン…
「?」
カルーアの耳に水音が聞こえた。 馬の水桶だろうか?
音のした方に目をやると、何か壷のようなものがある。
カルーアは首を傾げる。
(王…見世物…珍しい…)
「アア…『アレ』ネ…」
カルーアは、すいっと立ち上がり壷に近寄る。
恐れる様子も無く壷に手を差し入れた。
ビチャ…ビチャ…何かがカルーアの手に巻きつく。
壷から手を出すと、得体の知れない何かがカルーアの手に絡み付き、膨らんだり縮んだりしている。
「フフ…オ前モアタシノ子供ニナルカイ…」
カルーアはその塊を自分の胸に這わせる。
白いカルーアの乳房に黒い塊が纏わりつき『ミルク』を飲み始めた。
「フフ…フフフ…」

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