黒のミストレス
2:無表情なメイド達
日暮れ後すぐに、馬車は峠のこちら側コクラス村についた。
しかし小さな山村であり、お嬢様のシンシアが泊まれるようなところが無い。
ネリスが農家で聞いたところ、村はずれに使用人を使っている屋敷があるらしい、只…
ネリス「村の者が主人に会った事が無いらしいのです…メイドが時々食料品を購入しに来るらしいのですが…様子が
変だとか…」
ルーイ「身分の低いものと交わるつもりが無いだけだろう。シンシアを馬車で寝かせる気かい?」
ルーイは屋敷に行く事を主張する。
他に当てがあるわけもなく、一向は屋敷に向かう事になった。
村の中心から5Kmほど行った所に、その屋敷はあった。
思ったより大きい。
二階建ての屋敷で軽く20室はあろうかという貴族の館であった。
龍之信「ほう、大きな家ですな…」
感心する龍之信に対して、ルーイが馬鹿にしたように呟く。
ルーイ「田舎者め…」
馬車を止め、一行は大きな扉の前に立つ、ネリスがノッカーを鳴らす。
少しして、静かに扉が開き黒服のメイドが顔を出す。
メイド1「どちら様でしょうか」
ネリス「私は、マグダレシア家に使える者でネリスと申します。私どもの主人の供をして、山向こうのマグダスの街に
向かっておりましたが、峠を越えられず日も暮れまして難儀しております。厚かましいお願いではございますが一夜の
宿を所望できませんでしょうか」
メイド1「それはお困りでしょう、ご主人様に伝えてまいります。どうぞお入りになってお待ちください」
メイドの口調は丁寧だが、どこかよそよそしく、表情が無い。
龍之信は奇妙な違和感を覚えた。
一行は招かれるまま屋敷に入る。
吹き抜けの玄関ホールに入り、そこで全員がギョッとする。
そこには、9人の黒服メイドが並んでいた、全員かなりの美人に見えるのだか、全くの無表情である。
主人に知らせに行った者を含めると、10人のメイドが居ることになる。
”何か…人形が10体あるようだ…異国の女中とはいえ少し面妖な…”
後に、龍之信は己の直感を追及しなかった事を、深く悔やむ事となる…
一行は応接間に通された、暖炉には火が入っているが、こういうものはそばまで行かないと暖かくない。
みんなして暖炉の近くで体を温めている。
ルーイ「おかしなメイド達だ…」ルーイが失礼なことを言う。
シンシア「ルーイ、失礼でしょう。夜中に突然押しかけた私たちの方がよほどおかしいのではありませんか?」
ルーイ「いや、まったく、おかしな格好のやつが一緒だし…」露骨に龍之信を当てこする。
シンシアがさらに何か言おうとすると、応接間の扉の向こうから「失礼いたします」と声がしてメイドの一人が入ってくる。
メイド1「ミストレス様に、皆様の事を申し伝えましたところ、気になさらずに好きなだけ逗留して下さいとのことです…」
シンシア「「ミストレス様」ということはご主人は女性の方でしたの…知らぬ事とはいえ、女性ばかりの家に押しかけ、
重ね重ねの無礼、お許しください」
メイド1「いえ、お気になさらずに…申し訳ございませんが、ミストレスは日の光に過敏な御病気なので人前にお出に
なれないのです」
シンシア「まあ…」
メイド1「今は夜なのですが、『見苦しい姿は見せたくございません、失礼ですがご挨拶は遠慮させて頂きます』との
仰せで…御用は私どもが承ります」
ルーイがぶつぶつ失礼なことを呟いているようだ。
ネリス「あの…まことに失礼ですが、ミストレスのお名前はなんと…」ネリスがおずおず尋ねる。
メイド1「申し訳ございません、それがご病気のこともありましてお名前を申し上げる事が許されていないのです」
今でも珍しい事ではないが、容貌に支障が発生する病気の場合、感染の可能性の有無に関わらず、家族から遠ざけ
られ、家の名まで伏せられることがある。
シンシアはミストレスの境遇を察し、同情を覚えたが、今ここで何をできるというものでもない。
結局、ミストレスに挨拶はできなかった。
その後、一行は簡単な饗応を受け、あてがわれた客室に下がった。
−?−
闇の中、豪華な椅子にだれかが座っている、漆黒の長い髪、白い肌の女、何故か裸だ。
妖しい声がする。
「私の食卓へようこそ、悪魔の食卓へ、ほほほほほ…さて、だれからいただこうかしら…」
女の股間から、一筋の液がタラーリと光って落ちた…
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