魔女の誘い

終章(3)


 黒い森の奥に『魔女の館』があるという。 魔女は人を誘惑し、己がモノとして手元に置き、時が来ればその魂を食すという。 そして今夜もまた、一人の

男が魔女に魂を奪われようとしていた。

 
 ”ああ……『奥様』……”

 ”おいでなさい……”

 美しい魔女は、ベッドの上で体両手を広げて男を誘う。 男はフラフラと魔女に近づき、その体に自分の体を重ねる。

 ”ああ……”

 しなやかな四肢が、たくましい男の体に絡みついた。 柔らかな肉に、男の体が深々とめり込む。

 ”きて……”

 魔女に誘われるままに、男は自分自身で魔女の秘所を貫いた。

 ”はあっ……”

 ”くうう……”

 二人の喘ぎが絡み合った。 ベッドの上で、二人は一つの生き物のように蠢く。

 ”ああ……柔らかい……”

 ”もっと……もっと奥へ……”

 柔らかな泣く肉襞が男のモノへ絡みつき、さらに中へと誘い込む。 男は求められるままに腰を動かし、魔女の秘所へとモノを沈めていく。

 グチャリ……グチャリ……

 "ああ……たまらない……"

 ”ああ、固い……もっと……もっと来て……”

 男は腰を突き入れ、尻を振ってよがっている。 そして魔女は男を招く、自分の胎内へと。

 ズブリ……

 ”くはっ……”

 いつの間にか、男は下半身を魔女の秘所へと埋めていた。

 ”ああ……もっと……そこを……”

 ”た、たまりません……溶けてしまいそう……”

 陶然とした口調で喘ぎつつ、男は魔女の秘所にはまり込んだ体をゆする。 秘所から愛液が男の腹から胸を濡らし、その体を中へ中へと誘い込む。

 ”腹が……ああ……胸が……”

 男は巨大なモノと化したかのようにからだを揺すってよがり、じわじわと魔女の秘所に呑み込まれていく。

 ”はぁ……はぁ……”

 ”きて……ダニー……”

 ”ああ……ルウ……”

 ダニーと呼ばれた男は、ルウと呼ばれた魔女の秘所に全身を沈める。 その体に、ヌメヌメした肉襞が絡みついた。

 ”あ……”

 ダニーの全身を快感の嵐が貫いた。 真っ白いものが頭の中ではじけ、次の瞬間には全身に溢れる。

 ”蕩ける……”

 ”ああっ……熱い…”

 ベッドの上で魔女が身を震わせ、背筋を弓なりに反らす。

 ”ああ……ぁぁ……ぁ……”

 魔女の下腹から聞こえていた声は次第に小さくなり、そして聞こえなくなった。 後には、乱れたベッドの上に横たわる美しい魔女だけが残った……

 
 「……」

 満月に照らされ、青白い霧をたたえたた黒い森。 その森を空からじっと見つめる黒い影があった。 黒い翼を広げ宙を舞うそれは、ミトラ教のシスター・

エミのもう一つの姿だった。

 「黒い森の魔女……か……」

 エミは月光に照らしだされた霧の近くを飛ぶ。 パチッと音がして霧から火花が飛んだ。

 「やっばり、この霧が『魔女』の本体なのね……女の体だから、月の障りの時だけ道が開くわけか……」

 エミは高度を取り、もう一度上から霧に包まれた森を見る。

 「サキュバス・アイ!……なんちゃって」

 エミの瞳が金色の光を帯びた。 魔力が増幅された視力で、霧に隠された森の中の集落と館を視界に収める。

 「魔女の魔力で隠した集落で人を飼い、『収穫』しているわけね……そのかわり、飢えも税もない、『収穫』されるまでの生活は保障する……か」

 エミはため息をついた

 「人を魔女の家畜にする……これがあなたの出した答えなの? 麻美さん。 いえ、ミレーヌ」

 独り言のつもりで呟いた言葉に応えがあった。

 ”さて、どうだろね?……”

 エミは首を回し、声の主を探す。

 「ミスティ?」

 ”あったり〜”

 エミは森の近くに降り、宙を見上げてかっての『友』に語り掛ける。

 「貴方の差し金なの? 彼女が『魔女』を作ったのは」

 ”別にあたしが仕向けた訳じゃない”

 投げやりな調子で答えが返ってきた。

 ”どっちかというと、エミちゃんの影響だと思うけどな。 『魔女』の知識と力を継いで、何もしないでいいのかって、悩んでたみたいだし”

 「それで、あの『魔女』、いえ『奥様』と彼女が管理する集落を作り出したと?」

 ”みたいね〜 そのころは、もっと世の中荒れてたし。 やせこけた人間たちが、殺し合って。 『見てられない』って言ってたから”

 「『魔女』を生み出すのにあなたも手を貸したの?」

 ”さぁ? どうだったかな……昔のことだし……” どうでもよさそうな調子で『ミスティ』が答えた。

 ”確かあの頃は……先代のミレーヌちゃんや、ミストレスのおば様、『紫陽花』の娘たちにいろいろ聞きまわっていたと思うけど” 

 「聞き取りだけで、あれだけの『魔女』を生み出せるものなの?」

 エミは眉をしかめ、森に視線を戻した。 

 ”エミちゃん? 『魔女』を退治するつもりなの?”

 『ミスティ』の問いに、エミは肩をすくめてみせたが、『ミスティ』に自分が見えてないかもと思いなおし、言葉を返す。

 「黒い森の『魔女』のやり方を肯定はしない。 でも今は、あそこはうまくいっているようだから、干渉はしないわ。 せいぜい『満月の夜には黒い森に

近づくな』って噂を流す程度よ」

 ”あ、そう……”

 声が途切れた。 エミは月を見上げると、翼を広げて夜空に舞い上がる。

 「『黒い森の魔女』か……」

 誰に聞かすともなく呟く。

 「人として生きることを選んで野垂れ死ぬか、魔女の家畜となって安楽な生活の中で終末を迎えるか……それとも……」

 ”『魔女』となって生きるか……”

 エミが振り向くと、満月に一瞬『ルウ』の顔が重なり、すぐに消えた。

<魔女の誘い 終 2020/11/15>

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